17 04, 2023

下北沢あの店 この店「いーはとーぼ」

By |2023-09-07T17:33:16+09:002023/04/17|Categories: COLUMN, PUNK/HC, コラム-和モノ, ロック|0 Comments

いーはとーぼという喫茶店がある。小さな木造りの店で、喫茶スペースの端に何枚かのレコードと本を売っているお店。彼氏がレコードを漁っているあいだ、彼女はお茶しながら待っていられるという、まさに理想郷ともいえる店だ。 目をぎょろっとさせたマスターは、信じられないほどの大音量でジャズを流し、15年ほど通っているけどほとんど、完全に、まったく、ひと言も、喋っているところを見たことがない。いつもぼくは窓際の席でフレンチローストを頼んで、ただずっとスマホも見ずに音楽を聴いたり、ぼおっとしたり、うとうとしたりしている。 ある日、隣の席にカップルが座った。 なんだかうんざりした顔の男の子と、うつむきがちにずっとティースプーンをかちゃかちゃし続ける女の子。 今にも泣き出しそうな彼女が「どうしても無理?」と彼に言った。 彼は答える、「そうだね」。 「なんで?」と彼女。 ぼくたちはなにかを失くすとき、いつも口にする。「なんで?どうして?」と。 聞き耳を立てるのも野暮だなと思い、トイレに立つ。 もう出よう。その方がいい日だ。 恋人たちはまだ何かを言い合っている。 いつも恋はこんな風に急に終わってしまう。 信じられないほどの熱を持った時があっても、すべてをなぎ倒すような風が吹いた時があっても。 この店が彼らの過ごしてきた時間の中で、もしかしたらものすごく大事な場所だったとしても。       トイレのドアを開けると無愛想な5人組が顔に布を巻いてダルそうに立っているポスターが貼ってある。 「乙女の祈りはダッダッダ!」 いつもその言葉の意味不明さに笑ってしまう。 別れ話してる時にあんな顔するような男なんてやめちゃえばいいのに、と思う。 乙女の祈りはダッダッダ!なのだから。 店長   \\\\\\\\\\\\\\\\   いーはとーぼ [...]

28 01, 2022

「空にいちばん近い悲しみ/安井かずみ」【スタッフコラム VOL.1】

By |2022-11-09T18:23:59+09:002022/01/28|Categories: COLUMN, コラム-和モノ|0 Comments

  突然ですが、みなさんは安井かずみをご存じでしょうか? 当店のお客様にとっては、竹内まりや「不思議なピーチパイ」の作詞家といえばわかりやすいかもしれません。 当店の竹内まりや関連商品はこちら   数え上げればきりがありませんが、安井かずみの作詞曲は他にも岡崎友紀「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」、槇みちる「若いってすばらしい」、沢田研二「危険なふたり」、郷ひろみ「よろしく哀愁」など、誰もが一度は必ず耳にしたことのある大ヒット曲ばかりです。 他にも、和モノDJの皆様にとってはマスト盤の加山雄三「ちょっとだけストレンジャー」、PYG「自由に歩いて愛して」、和田アキ子「古い日記」なども、安井かずみのペンによるものなのです。 プロの作詞家になる前の彼女は<みナみカズみ>というペンネームで、田辺靖雄・梓みちよ「ヘイ・ポーラ」、ザ・ピーナッツ「レモンのキッス」などの訳詞を担当し、その手腕を磨いたといいます。 「海外の歌を日本語で歌う」いわゆるカヴァーポップスは、和モノDJの皆様にとっても、ビギナーの皆様のレコード収集への一歩目としても大事な文化ですが、その盛り上がりの一片は彼女が握っていたと記してもまったくおかしくはないでしょう。 没後30年近くが経った現在も変わらず愛され続ける名作を多数に残してきた彼女が、70年代初頭に自身の名義で2枚のレコードを残しています。   1970年に発売されたファーストアルバムは、彼女のニックネームである「ZUZU」からタイトルが取られました。 このレコードは安井かずみ自身が歌った唯一の作品であり 親交の深かった日野皓正、かまやつひろし、沢田研二などの豪華な作家陣たちが楽曲を提供しています。 安井かずみ自身の歌は決して上手ではないけれど、あどけなく伸びやかで、まるで彼女の愛したフランスの歌手たちのようであります。     そしてその翌年に発売となったセカンドアルバムが、本日のメインテーマである「空にいちばん近い悲しみ」です。 購入ページはこちら   いわゆるヒッピー・ファッションにマスカラを塗りたくったまつ毛。 物憂げに下を向き座る姿が印象的なジャケットは「これぞ70年代」としか言いようがありません。     見開き部分も裏ジャケもすべて篠山紀信による撮影であり、レコード買うおもしろみのひとつ「物として持っておきたい」は、このヴィジュアル情報だけで満たされてしまいます。 そして、その内容は作曲に服部克久、演奏は新室内楽協会によるもので、それをバックに自作の詩を歌唱するわけではなく朗読するというものなのですが、前作「ZUZU」との圧倒的な違いこそがここなのです。 歌い上げるわけでも、伸びやかに歌唱するでもなく、気持ちを乗せすぎない抑揚のない声で、彼女が彼女自身の詩をただただ読み上げる。 [...]

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