自分は高校の時、いわゆる「イキりガキ」でした。
どの学校にも1つは存在する目立つ男子グループになんとか自分を所属させるために、女性慣れを装い「2組の〇〇(女子)はさ~」などと宣い、ファッション誌でおしゃれキングが着てる服を親にせびったお金で買ったりしてました。
しかし身の丈に合わない行動は徐々に心身を蝕み、家に帰るたび深いため息を漏らしていました。
そんなある日、家の近くにレコ屋を発見。自分の部屋よりちょっと広い程度の空間に倉庫のように並べられた得体の知れない音源。スピーカーからは雑音のような怖い音。
「君初めましてだよね、なんか好きなバンドとかあるの?」とカウンター内の髭面のおっさんにいきなり声をかけられ、ビビり散らかした私は「あ、あ、あ、あ、」とカオナシのような返ししか出来ず、「若いよね。こんなん好き?」とBGMを変えてくれた。名古屋のシガレットマンというバンドの音源。流れてきたのは、テープを2回ダビングしたような少しこもった音質に上手いとは言い難い男女ボーカル。今まで聴いた事のある音楽とは全然違う感覚。「それ貸すからさ、またおいでよ」と髭面店員。
借りたその音源を毎日聴いた。授業中、先生に見えないように袖から通したイヤホンで聴いた。この学校で絶対自分しか知らない音楽を聴いてる喜びは、男子グループと行動してるそれの比じゃなかった。
ほぼ毎日その店に行き、店員さんが薦めてくれた音源をたくさん買った。JAWBREAKER、MEGA CITY FOUR、NAILS OF HAWAIIAN、SPROCKET WHEEL…レコードでしか出てない音源もあった。人生初のレコードプレイヤーを買った。
店員さんはライブの企画もしていて、よくそれに遊びに行った。20人も入れば一杯のスタジオで酔っ払いにもみくちゃにされながら、目と鼻の先で演奏するバンドに熱狂した。ロックは全然、選ばれた人のものじゃなかった。気付いたら男子グループとは行動しなくなってた。
時が経ってその店員さんが亡くなった時、とあるライブハウスで行われた追悼イベント。みんな笑ってた。そこにその人の姿はなかったけど、その人を想ってみんな笑ってた。
自分もパンクロックを好きなまま生きて死のうと思った。
スタッフすずき