「空にいちばん近い悲しみ/安井かずみ」【スタッフコラム VOL.1】

 

突然ですが、みなさんは安井かずみをご存じでしょうか?

当店のお客様にとっては、竹内まりや「不思議なピーチパイ」の作詞家といえばわかりやすいかもしれません。

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数え上げればきりがありませんが、安井かずみの作詞曲は他にも岡崎友紀「ドゥー・ユー・リメンバー・ミー」槇みちる「若いってすばらしい」沢田研二「危険なふたり」郷ひろみ「よろしく哀愁など、誰もが一度は必ず耳にしたことのある大ヒット曲ばかりです。

他にも、和モノDJの皆様にとってはマスト盤の加山雄三「ちょっとだけストレンジャー」PYG「自由に歩いて愛して」和田アキ子「古い日記」なども、安井かずみのペンによるものなのです。

プロの作詞家になる前の彼女は<みナみカズみ>というペンネームで、田辺靖雄・梓みちよ「ヘイ・ポーラ」、ザ・ピーナッツ「レモンのキッス」などの訳詞を担当し、その手腕を磨いたといいます。

「海外の歌を日本語で歌う」いわゆるカヴァーポップスは、和モノDJの皆様にとっても、ビギナーの皆様のレコード収集への一歩目としても大事な文化ですが、その盛り上がりの一片は彼女が握っていたと記してもまったくおかしくはないでしょう。

没後30年近くが経った現在も変わらず愛され続ける名作を多数に残してきた彼女が、70年代初頭に自身の名義で2枚のレコードを残しています。

 

1970年に発売されたファーストアルバムは、彼女のニックネームである「ZUZU」からタイトルが取られました。

このレコードは安井かずみ自身が歌った唯一の作品であり

親交の深かった日野皓正かまやつひろし沢田研二などの豪華な作家陣たちが楽曲を提供しています。

安井かずみ自身の歌は決して上手ではないけれど、あどけなく伸びやかで、まるで彼女の愛したフランスの歌手たちのようであります。

 

 

そしてその翌年に発売となったセカンドアルバムが、本日のメインテーマである「空にいちばん近い悲しみ」です。

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いわゆるヒッピー・ファッションにマスカラを塗りたくったまつ毛。

物憂げに下を向き座る姿が印象的なジャケットは「これぞ70年代」としか言いようがありません。

 

 

見開き部分も裏ジャケもすべて篠山紀信による撮影であり、レコード買うおもしろみのひとつ「物として持っておきたい」は、このヴィジュアル情報だけで満たされてしまいます。

そして、その内容は作曲に服部克久、演奏は新室内楽協会によるもので、それをバックに自作の詩を歌唱するわけではなく朗読するというものなのですが、前作「ZUZU」との圧倒的な違いこそがここなのです。

歌い上げるわけでも、伸びやかに歌唱するでもなく、気持ちを乗せすぎない抑揚のない声で、彼女が彼女自身の詩をただただ読み上げる。

そして、その後ろで流れるアコーディオンの音色とメロディーは日本的でありながらも、その小粋で丁寧な造りに演歌的雰囲気は皆無であり、このレコードの主人公は安井かずみの「」であるという明確な意思を音の端々から感じることができます。

 

 

 

 

人々は とても親切に通りすぎる

時間は とても不親切に通りすぎる

愛することも こわくて 嫌うことも こわくて

何も出来ない

でも あなたは 明日を生きるには充分に美しい

でも 今日に死ぬ程は美しくない

————————「空にいちばん近い悲しみ」

 

冒頭に書いたように、安井かずみはヒット曲を量産し日本の歌謡曲界でその地位を確立しました。

物質的な幸福に満たされた彼女は1967年にイタリアローマで結婚をしますが、翌年ニューヨークで離婚、そのまた翌年の1969年からパリに住まいを移し、日本とフランスを行ったり来たりする生活をしていました。

このレコードはその直後の1971年に発売されたものであり、海外を飛び回り、恋に落ち、別れ、傷ついた、まさに若者にしか訪れない、二度と戻ることのない「ある特有の時期」に書かれた詩なのではないかと推察します。

 

私たちは時折、生きることは素晴らしいと思い込むことにすら疲れ、他人のことを考える余裕などなく、とにかく疲れ、疲れ、疲れ切ってしまうことがあります。

それはあまりにも悲しいことで、「どうにか楽しくやっていきたい」と思えば思うほど、私たちは悲しみに沈み込んでゆきます。

 

大半の若者が「何のために生きていけばいいのか」と悩み、これが幸せだと信じているものに対し、焦りと孤独を感じるものです。

このレコードを買った2007年当時。大学生だった自分もまた安井かずみが綴る「いらだち」に痺れたものです。

1977年に加藤和彦と再婚後は、作詞家としては徐々に第一線から退き、家庭中心の生活になっていきます。

その仕事論も旦那である加藤以外の作曲家の歌詞は一切受け付けないという、あまりにもかたよったものだったようです。

 

 

 

けれど、そのふたりきりだけの、誰にも理解されない生活こそが「空にいちばん近い悲しみ」では書くことのできなかった「本当の幸せ」だったのかもしれません。

私たちは空からいちばん離れたアスファルトに立ちながら、彼女が最後にはなくしてしまった、空からいちばん近い悲しみを感じることができるのです。

レコードに針を落とすたびに。

 

Text  By Kouhei Kaneda(GENERAL RECORD STORE)

 

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